ベニバナ Carthamus tinctorius その2

植物観察会

前回の「ベニバナ Carthamus tinctorius その1」の続きのお話しです。

ベニバナの原産地は地中海沿岸からエチオピア、エジプト周辺とされていますので、キク科のベニバナは日当たりが良く、乾燥した気候を好む植物のようです。
古代エジプト人は、鮮やかな色のベニバナが生活に深く根ざした価値ある植物であることを発見し、宗教儀式・薬草・美容・食料(食用油や香辛料)そして染料に至るまで多岐にわたり利用していました。

Kahorin
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最もよく知られているベニバナの利用法の一つが、ミイラを包む布(屍衣)の染色です。紀元前2700年〜2500年頃のピラミッドや墓から出土したミイラの布には、ベニバナで染められたものが確認されています。紅花に含まれる黄色色素には防虫・防腐作用があるとされており、これがミイラの保存にも役立った可能性があります。

ベニバナの黄色色素である「サフロールイエロー」は、比較的安定した分子構造を持っていますので、色素が繊維としっかりと定着することで、光や空気による分解(色褪せ)が抑制された可能性があります。

Kahorin
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古代エジプト人は植物染料の扱いに非常に長けていたこと、またミイラ化する際に施される防腐処理技術の高さなどが複合的に働いた結果、ミイラの布にベニバナの黄色色素を使用し、それが2000年以上もの時を超えて色を保ち続けているというのは本当に驚くべき事実です。

ちなみに、ミイラの布にも使われていた「亜麻布(あまぬの)」は、亜麻(アマ)Linum usitatissimumというアマ科植物の茎から作られます。その繊維は一般的に「リネン」と呼ばれています。つまり、亜麻布はリネン生地のことです。古代エジプト時代から、リネンは形を変えつつも、その優れた特性から長く愛用されてきた繊維です。今でも、夏用の洋服、タオルやシーツなど身近な場所で活躍しています。

このように、ベニバナの黄色で亜麻布を染めるということは、単なる装飾を超え、宗教、実用、美意識、そして社会的な地位といった多層的な意味合いを持っていたと言えるでしょう。古代エジプトの人々は無地の亜麻布でなく、鮮やかでありながらも落ち着きがあり高貴な印象の生命の色を帯びた黄色に染色された布を巻くことで、より神聖に、かつ美しい姿で来世に送り出したかったのかもしれません。

古代エジプトの人々が残した色鮮やかな布や壁画を見るたびに、高度な知識と技術、そして美意識の備わった古代エジプト人の営みに思いを馳せてしまいます。当時の人々の情熱や想いが、時を超えて私達の心にも深く響いてくるように思います。

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