中国の古典『淮南子』の故事に由来する四字熟語に「一葉知秋(いちようちしゅう)」という言葉があります。これは教訓や本質を説く中国の故事成語で、「わずかな兆候から未来を予知する道理」を説いています。一枚の葉が落ちるというわずかな現象(一葉)から、秋の訪れという変化を察する、という古人の豊かな感性と鋭い洞察力が凝縮された、ちょっと哲学的な表現です。

ちなみに日本では「一葉落ちて天下の秋を知る」という形で知られています。この「一葉」の「葉」なのですが、一説では秋の訪れを早く知らせるアオイ科アオギリ属のアオギリFirmiana simplexの葉のことではないかと考えられています。
たしかに、アオギリは夏の終わり~初秋にかけて、まだ他の樹木が青々と茂っている頃から、その大きな葉を1枚、また1枚と落とし始めます。
キリに似た葉をつけ、幹肌が青い(緑色)ことからアオギリと名付けられ、その美しい幹肌から、シラカバ、ヒメシャラとともに日本三大美幹木となっています。原産地の中国ではアオギリは梧(ご)または梧桐(ごどう)と呼ばれています。
実は樹木を良く観察しますと、アオギリの葉はキリの葉とはあまり似ていません(笑)し、アオギリとキリは科名も異なります。アオギリは直径15〜30cmにもなる掌状の大きな葉が特徴で3~5つに切れ込み、基部は深く窪み裂片の先は尖っています。一方、キリの葉には切れ込みはありません。
科名が違うとか葉が似ていないということはさておき、アオギリは伝説上の霊鳥である鳳凰(ほうおう)が住む木とされ、「梧桐にあらざれば栖(す)まず、竹実にあらざれば食わず(鳳凰は梧桐=アオギリでなければ休まず、竹の実でなければ食べない)」という言い伝えがあります。とにかくアオギリは鳳凰がお住まいになる瑞兆(めでたいしるし)の樹木なのです。それを知ると、アオギリのイメージ、かなり上がりませんか?
植物界のアオギリのように「落葉の早さ」で知らせるもの、ニシキギやハナミズキのように「紅葉の早さ」で知らせるもの、キンモクセイのように「香り」で知らせるものなど、様々な樹木が私達に秋の移ろいを伝えてくれます。そして秋の訪れは色や香りだけでなく、音や触感といった微細な世界にも隠れています‼
五感を研ぎ澄ませながら、是非「小さな秋」を探しにお出かけしてみてください。


