シャガ(Iris japonica)は人里近くの湿った森林や低地、公園などに普通に見られるアヤメ科の多年草です。4月から5月頃に咲く淡紫色の花はちょっと凝ったデザインで印象的ではありますが、今回は花のない時期も50~60cmほどに生長する、肉厚で平たく光沢があり、すっと伸ばして外側に垂れ下がり地面を彩る『葉』に注目してみました。ちなみにシャガは、アヤメ科では珍しく常緑で越冬性を持っています。
(^^♪ 以下の内容の一部は3月の植物観察会で、ご説明させて頂きました。
シャガの根元に近いところを良く観察しますと、茎に対して葉は、まるでネギの葉が押しつぶされたような扁平状を呈しています。ご興味のある方は、実際にシャガの葉を観察してみてください。
植物の葉は普通「表」と「裏」があるのですが、実はシャガの葉には表裏の区別はありません。私たちが目にしている葉はどちらの面も「裏」で、表は見られません。
え?両面が「裏」?では表はどこにあるのかと言いますと、葉がつくられる時、裏の面を上にして二つに折り重なるように伸びて、本来の表の面が完全に内側に入ってしまい、外からは見えなくなるのです。外側に表か裏どちらか一面しか見られない葉のことを「単面葉」と言います。
では、松やスイセンなど、表と裏の区別がつかない葉は?視点を変えて観察しますと、ますます疑問が湧いてきてしまいます。植物観察の面白さ、少しでも皆様にお伝え出来ましたら幸いです。
単面葉について
一般的に、葉の「表」は主に光合成を行う場所、一方「裏」は主にガス交換を行う場所で気孔と呼ばれる小さな穴があり、二酸化炭素を取り込み、酸素を排出しています。
このように、葉の表と裏はそれぞれ異なる役割を担うことで、植物の生存に重要な役割を果たしています。
シャガなどのアヤメ科植物やネギといった一部の植物は、「単面葉」という裏側の性質しか持たない葉をつくります。ちょっと不思議な「単面葉」のメカニズムについて、数十年前に日本の研究者が『単面葉は、葉の裏側の性質を決める遺伝子が葉全体に働いている』ことを明らかにしました。
またアヤメ科の単面葉は、表側と裏側で細胞の形状や葉緑素の分布が異なるものの、両面に葉緑素が存在し、葉の両面を光合成測定装置で測定した結果、両面で光合成が行われていることが確認されています。